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皮革の構造① 基本構造

更新日:2023年12月27日

 革の原料は動物の皮膚です。

革は定義上、動物(おもに哺乳類ですが)の皮膚組織の構造を多少ともそのまま維持しているので、非常に複雑かつ巧妙な構造を持っています。


今回は、皮革の構造に焦点を当ててみたいと思います。

豚や羊や牛、鰐や鮫など動物の種類によって構造は大きく変わりますが、ここでは牛皮を念頭においています。

成牛の皮は一般的に4~6mmの厚さがあり、部位によっては8mmに達することがあります。

組成はおよそ6割強が水分で、3割強がタンパク質、残りは脂肪やミネラルです。

そして、3割強のタンパク質のうちの9割弱がコラーゲンで、あとはケラチン、エラスチンなどです。

つまり、水を除くと革はほぼタンパク質、ほぼコラーゲンで組成されています。


鞣された革の断面をみると、以下の図1のようになっています。


Cross section of Leather
図1 革の断面図 Marion Kite & Roy Thomson: Conservation of Leather and Related Materials, Routledge, 2020, 13p.

 なんとなく、上3割、真ん中6割、下1割くらいの割合で印象が違いませんか。

上3割くらいはモコモコしていて、真ん中6割くらいは土中の木の根っこみたいな印象を受けます。そして下1割くらいは色が少し濃くなっています。

革素材は一見一枚の薄いシート状になっていますが、断面を見ると層が存在しているのです。


この層は革に加工される前の皮、すなわち動物の皮膚の構造に由来しています。

下の図2は、鞣される前の皮、すなわち動物の皮膚の断面を図示したものです。


皮の断面図
図2 皮の断面図 Marion Kite & Roy Thomson: Conservation of Leather and Related Materials, Routledge, 2020, 12p.

動物(主に哺乳類)の皮膚は、このような構造をしています。

皮膚はおおまかに、ごく薄い表皮の層と厚い真皮の層でできています。

そして、真皮の層を鞣すことで革が得られます。

それぞれの層について説明すると、以下のようになります。


表皮(Epidermis)

皮の一番表面にある薄い層です。外界から受ける刺激から生体を保護する役割があります。表面の細胞は死んでおり、乾燥して収縮すると皮膚から落ちます。いわゆる新陳代謝です。

表皮のケラチンは分解されやすく、製革工程では毛と一緒に除去されます。この部分は革にはなりません。


真皮(Corium / Dermis)

"Corium"という語はラテン語で「革」を意味することからもわかるように、真皮層が革へと加工されます。図2でいうと"GRAIN"から"CORIUM"に至る部分です。

真皮はコラーゲン線維で形成されており、その線維の太さや角度、交絡密度から主に二つの層に分けて観察されます。すなわち、乳頭層と網状(網様)層です。

乳頭層(Corium Minor / Papillary Dermis)
結合部(Junction)
網状層(Corium Major / Reticular Dermis)

真皮肉面層(Corium Flesh Layer)

 網状層のさらに下のほうにいくと、線維がやや細くなっていき、傾きがだんだん低い角度になっていきます。

線維が細いということは、線維の毛羽がより細かくなり、革になったときの見た目がよりスムースになることを意味します。この部分を加工したものが、スエード革です。そして、線維がだんだん寝てくるということは、伸びにくく、引っ張りに強くなることを意味します。


これより下の層は肉や筋肉、脂肪など食肉へ加工される部分で、「皮」ではありません。


以上、皮革の断面について説明してきましたが、まとめると、

  • 革は動物の皮膚のうち真皮を鞣したもの

  • 皮革はコラーゲン線維の絡み合いで形成されている

  • 線維の太さや角度、絡み合いの密度から二層が観察できる

ということになります。


 次に、革の正体ともいえるコラーゲン線維についてみてみましょう。

コラーゲン線維とひとくちにいっても、実態は非常に複雑です。

この絡み合っている線維は、より細い線維(ファイバー)の束(ファイバーバンドル)で、そのより細い線維(ファイバー)はさらに細い線維(フィブリル)の束(フィブリルバンドル)で形成されていて、フィブリルはさらに細かい線維(Sub, Micro-Fibril)の束になっていて、そのさらに細い線維はコラーゲン分子(トロポコラーゲン)が束になっているもので、そのコラーゲン分子の三重螺旋構造はゼラチンに分解することができ、そのゼラチンはペプチドが結合してできているもので、ペプチドはアミノ酸が結合することでできています。


文字で読むと非常にややこしいですが、イメージ的には以下のような感じです。


コラーゲン線維の構造
コラーゲン線維の構造イメージ

 皮はコラーゲン線維でできているとひとくちにいっても、その構造はとても複雑で、組織全体は非常に強靭かつ柔軟な三次元構造になっています。

この構造が皮の多くのすぐれた特性を生み出しており、現代のナノテクノロジーをもってしても、このような構造を作り出すことはできません。

それを腐らないように安定化したものが革です。


 革の歴史①にみたように、革は数千年前から実用化されてきた素材です。そういう意味では革はローテク素材ですが、その機能や構造をじっくり見ると実はスーパーハイテク素材なのです。


つづく

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