top of page
ヘッダーロゴ

革の歴史① 皮革の起源

更新日:1月2日

 革は非常に長い歴史を持つ素材です。

人類はいったいいつ頃から皮革を暮らしに活用していたのでしょうか。


 現代においてもそうですが、革は食肉の副産物です。そして人類が肉食を始めたのは今からおよそ250万年前と考えられています。

ということは、およそ250万前頃から皮革製のアイテムが使われていたと考えてもおかしくありません。

何しろ、皮革は素材の形状としては数平方メートルにわたる一枚のシートです。身にまとったり、幌にしたり、何かを包んだりするのにとても便利で、織物が開発されるまでこのような大判の形状の素材は存在していませんでした。

しかし、皮はすぐに腐る有機物で、ある程度鞣された革が使われていたとしても、現代の人類に発掘される前に土にかえってしまいます。

腐敗を防ぐ技術なしに、皮革を日用品に用いることは不可能だったはずです。


 いっぽう、間接的な証拠、つまり皮革を加工するのに使っていたであろうツールによると、皮革の歴史は今からおよそ40万年前くらいまでは遡ることができます。

このころの石器ツール、たとえばイギリスのホクスンで出土した石器ツールは、顕微鏡で観察すると、その摩耗の仕方から、おそらく皮をこすることで薄く削り、水分や脂肪を抜き硬化させて腐敗を防ぐ、すなわち鞣すために使用されていたことがわかっています。


Stone tool
Ian Gilligan, The prehistoric development of clothing, 2010, p.41

 いずれにせよ、革の製法はある時点でいきなり発明されたわけではなく、食肉をとったあと残った皮革を生活に役立てるため、なんらかの方法で皮革を腐らずに維持できる方法はないかという試行錯誤の末に、すこしずつ確立していきました。


 革の製法(鞣しの技術)の萌芽は、紀元前4万年から1万年の間ではないかと考えられています。

まず、人類は動物の皮が煙や塩に晒されることで腐敗しにくくなることを発見します。

最初は皮が腐るのをほんの数週間延ばすくらいの感覚だったかもしれません。


 その後、おそらく紀元前数千年という単位に入ってからは、動物の髄液や脳漿、臓器や脂肪を燻煙や塩漬けに合わせて用いることで、さらに皮を腐らずに維持できることを発見します。

その他にもアルデヒド、魚油、卵黄、土、ミョウバンその他の鉱物鞣しなど、さまざまな鞣しを行った革が見つかっています。

おそらく人類は、植物の抽出物や糞尿などありとあらゆるものを使って実験を繰り返したと考えられます。


 時代は進んで、紀元前3000年頃には革の製造は技術として確立してきたと考えられています。

このころには動物の家畜化も進展しており、皮革の製造も慣習化していたでしょう。


 その明確かつ直接的な証拠として最も古いものに、一足の靴があります。

2008年にアルメニアの洞窟から発見された、一枚の牛革でできた靴と革製の靴紐で、紀元前3500年ごろのものとされています。今からおよそ5500年前の靴ということになります。



Areni-1 Shoe
"Areni-1 Shoe" CC BY 2.5 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0010984



 また、1991年に発見された、紀元前3300年頃のミイラは、手の込んだ作りの靴を履いていました。今から約5300年前の靴です。

この靴は、羆の毛皮でできた底革と鹿革の甲革に穴をあけて牛革の紐で固定し、中に草を詰めてクッションにするという構造です。


Otzi the Icaman shoe Replica
Otzi the Iceman shoe Replica © Bata Shoe Museum https://astepintothebatashoemuseum.blogspot.com/2017/09/otzi-iceman.html

 甲革の鹿革は脳漿、内臓、骨髄から得られた脂で鞣されたあと、燻煙されていたことがわかっています。また、底革の熊革と牛革は、生皮を乾燥させたものが用いられています。

乾燥させた生皮は現代でも太鼓の張り革や犬のおやつなどに用いられることがありますが、生皮を乾燥させると非常に硬くなり耐水性も高くなります。

ソールやストラップには硬く耐水性の高い乾燥させた生皮を使い、アッパーには柔軟性のある鞣し革を使っているということは、靴の部位によって要求される革の特性をコントロールしているということでもあります。

紀元前3000年前の時代に、すでに人類は鞣法を組み合わせて革の実用性を引き出していました。


 紀元前1400年頃のエジプト貴族・宰相であったレクミラの墓には壁画が残されており、現代でも使われる天然皮革を示すマークとほぼ同じ図柄が描かれているほか、皮革を擦ったり、壺に付け込んだりしている様子が描かれています。

この墓の壁画には、故人とその家族の様子や、宝飾品加工や金属加工などの産業の様子が描かれています。


Leather Workers, Tomb of Rekhmire
Leather Workers -Tomb of Rekhmire-, Public Domain, CC0 1.0 DEED

その中に皮革製造の様子も描かれていることから、紀元前1400年頃にはすでに皮革の製造は一つの産業・職業になっており、社会・経済で一定のポジションを占めていたことがわかります。

ただ、この頃は主に油脂やミョウバンによる鞣しが行われていたと考えられています。


現代にも通ずる鞣法に、植物タンニン鞣しがあります。植物タンニン鞣しは、植物の抽出物を使って皮を腐らないように鞣す方法で、19世紀ごろまではほとんどすべての皮が植物タンニンで鞣されていました。


 この後まもなく、とはいっても数百年単位ですが、紀元前1000年頃に、人類は皮革を物理的にも化学的にも安定化する植物タンニン鞣しに到ったたと考えられています。


つづく

bottom of page